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第5回“福祉に対する私たちの想い”スピーチコンテスト 鹿児島県知事賞(最高賞)受賞

2017.02.14

社会福祉法人薩摩川内市社会福祉協議会権利擁護センター

瀬戸口 高代さん

「尊い命と向き合って。今、私に出来ること」(スピーチ全文紹介)

 

 始業前、職場に鳴り響く電話のベル。

 「おはようございます。薩摩川内市社会福祉協議会権利擁護センター、瀬戸口です。」

 「あのう、生活費が足りないんですけど。」と、電話口には聞き慣れた女性の声。

 「そうなんですね。生活費が足りなくなったんですね、それはお困りですね。」と応える私。その女性に1ヶ月分の生活費をお渡したのは、つい2日前のことでした。

 私の業務である福祉サービス利用支援事業は、判断能力に不安のある方と社会福祉協議会が契約を結び、福祉サービスを利用するための支援や日常的な金銭管理のお手伝いをするものです。

 今日私がお話しするのは、私にとって大きな影響を与えたある家族についてです。認知症と障害を持つ家族の中に、1人だけ健常者のAさんがいました。Aさんは明朗活発な40代の女性です。世帯で唯一の健常者ということもあり、家族の支援において重要な役割を担っています。

 ある日のこと「こんにちは。」とAさんが事務所を訪ねて来られました。突然の来訪に驚きましたが、家族の状況を報告した後、世間話となります。すると徐にAさんが、「ちょっと触ってみてください。」と私の手を取り、自分の左胸へと導かれます。驚いた私は、「どうしたのですか。」と聞くと、「しこりがあるのが分かりますか。」と言われます。そしてAさんは1度俯いた後、静かに微笑み、「実は乳癌を患いまして。」と言われたのです。突然の告白に私は言葉を失いました。

 Aさんは今後、休職し治療に専念しなければならず、関係機関に迷惑をかけることになると、来訪されたのでした。

 その中でAさんが「どうしても」と懇願されたことがあります。それは、「病気のことを家族には黙っていて欲しい」ということでした。もし、家族が知ってしまったらパニック状態となり、関係者の皆さんに迷惑をかけてしまうからというのがその理由でした。家族には伏せておくことを約束すると、安堵されたのか、いつもの笑顔を見せられて帰っていかれました。

 私は悩みます。Aさんを失ったら、この家族は一体どうなるのか。知らせて欲しくないというAさんの気持ちは尊重すべきですが、これほど重大なことを家族に知らせなくていいのだろうか。

 そして何よりも、Aさんはどんな気持ちで今を過ごしているのか。認知症と知的障害を持つ家族、それだけでも大変なのに、癌という病魔に襲われたのです。もし私が同じ境遇なら、直面する死への恐怖に怯え、笑顔を見せることなど到底できないでしょう。闘病生活で重要といわれている家族の精神的な支えが、Aさんにはなかったのです。

 日常的な金銭管理が主な業務である私にとって、Aさんの深刻な状況は初めて直面する事態でした。そのため「どうすることも出来ない。いや、私にも何か出来るかも。」と日々思い悩みました。その中で唯一私に出来たこと。それは「話しを聞くこと」つまりAさんの話し相手になるということでした。入退院を繰り返すAさんの病室を時折訪ね、メールのやり取りを続けました。

 1年後Aさんの病状が急変、闘病の甲斐なく、余命2ヶ月の宣告を受けます。それでも「家族には伝えないでください」というAさんの思いに変わりありませんでした。

 私はこれまでの関わりの中で、Aさんと家族、関わりを持つ人たちが、まもなく訪れる「死」に対して、後悔なく向き合って欲しいと思うようになっていました。そこでAさんの友人、遠縁の親戚、福祉関係機関、民生委員の方々で集まり、Aさんと家族の支援について話し合いを繰り返しました。そうする中で各関係者が連携し、それぞれが出来ることを自主的に担ってくださいました。結果、Aさんは、直接家族と会って癌である事を伝える決断をされます。

 家族との面会の後、「大丈夫ですか、伝えられましたか。」と声をかけると、いつも毅然としていたAさんが、「家族に会えて良かったです。本当にありがとうございました。」と溢れる涙もそのままに、何度も何度も頭を下げられました。そしてそこにいたみんなが泣いていました。

 その涙は悲しみ、喜び、感謝など色々な感情が合さった愛に溢れた涙でした。その時その病室には穏やかで優しい、幸せな時間が流れていたような気がします。

 命は尊いものです。しかし、今の時代、毎日のように悲しみに堪えないニュースが流れてきます。誰しもが幸せになりたいと願っているはずなのに、どうしてなのでしょう。今の私にはどうすることも出来ません。それでもそんな私にも、「何か出来ることがある」ということをAさんが教えてくれました。

 今日、福祉分野では人材不足が深刻な問題となっています。あまり魅力のない職場だと言われていますが、本当にそうでしょうか。私は、こんなにも人を幸せにして、自分自身も感動を得られ、そして成長出来る職場に巡り合えたことに感謝しています。

 私は1人の社協マンとして、1人の福祉人として、これからも1人1人の尊い命に向き合っていきたいと思っています。


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